名古屋高等裁判所 昭和59年(ネ)313号 判決 1985年7月18日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の申立
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、金五三二万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年九月三日以降完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
二 被控訴人
主文同旨
第二 当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張及び証拠関係は、以下に付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決二枚目表九行目の「二階建」の後に「店舗」を加える。
2 原判決二枚目裏一一行目の「五七」を「五八」と改め、同三枚目表四行目の「物上代位」の後に「権を行使」を加える。
二 控訴人の主張
1 本件においては、根抵当権設定当時、すでに賃借権が設定されていて、根抵当権者は賃借権の負担のある担保物の価値を把握していたにすぎないのであるから、賃料が根抵当権者の把握した交換価値の具体化したものということはできず、これに対して物上代位権行使を認めることは担保価値を増加させることになって公平に反する。
2 控訴人は、根抵当権の目的物の譲受人であり、目的物の使用価値として賃料を取得しているのに、右賃料を根抵当権者が把握するとすれば、右目的物を取得した譲受人の利益が無視されることになって公平に反するとともに、非占有担保権たる抵当権の本質に反する。
三 被控訴人の答弁
控訴人の右主張はすべて争う。
理由
一 当裁判所も控訴人の本訴請求はこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、以下に付加するほかは原判決の理由説示(原判決四枚目表九行目から同五枚目裏二行目まで)と同一であるから、これを引用する。
二 賃借権の負担がある目的物件に対する根抵当権は、右賃借権によって生ずる賃料債権をも含めた目的物件の交換価値を一体として把握しているものと解するのが相当であり(右のように解したとしても、目的物件に対する貸借人の用益権を妨げるものではない)、しかも、根抵当権者である被控訴人がした賃料債権の差押、転付の手続が、すでに目的物件に対する担保権の実行による差押手続開始後にされたという本件のような場合においては、被控訴人による右権利行使を相当として是認することができるというべきである。したがって、根抵当権者がえた右差押、転付命令が法律上の原因を欠くということはできない。
三 よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。